最高裁判所第二小法廷 昭和42年(行ツ)73号 判決 1968年2月16日
熱海市熱海五〇六番地
上告人
蜂須賀智恵子
同所
上告人
蜂須賀正子
右両名訴訟代理人弁護士
水谷昭
小久江美代吉
東京都千代田区震が関一丁目一番一号
被上告人
国
右代表者法務大臣
赤間文三
右当事者間の東京高等裁判所昭和三九年(行コ)第五五号所得税額決定等無効確認請求事件について、同裁判所が昭和四二年四月二七日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人小久江美代吉、同水谷昭の上告理由第一点および第三点について。論旨は、いずれも原判決に副わない事実に立脚して原判決の違法をいうにすぎないものであり、上告適法の理由とは認められない。
同第二点について。
税理士法三〇条に関する原審の見解は、是認することができ、同条項の法意を民訴法八〇条の場合と同様に解すべき合理的根拠はない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎)
(昭和四二年(行ツ)第七三号 上告人 蜂須賀智恵子 外一名)
上告代理人小久江美代吉、同水谷昭の上告理由
第一点 本件土地建物の譲渡から生じた所得は甲第一号証乃至甲第五号証に照合しに熱海税務署に於て調査認定した如く昭和二六年の所得であり同署の決定が正当であることは疑義の余地はない。
凡そ違法な行政処分は之を取消是正することは当然であるが何ら瑕疵なき正当合法的な行政処分を取消すが如きは取消処分自体が違法である。仮りに上告人らの代理権を有したと称する馬場弁護士の申出があったとしても取消を合法化する理由とはならぬ。
然るに原審は代理人馬場弁護士らに昭和二七年度分と認定替へすることに修正申告の形式をとるよう求め……昭和二七年所得として申告した……」と判示する。即ち原審認定によれば昭和二七年度の所得としての申告は事実なかりしものを恰も所得があったが如く税務当局の要請によりなれあいで虚無の申告をなさしめたものである。
民法第九四条「相手方ト通シテ為シタル虚偽ノ意思表示ハ無効トス」との法理は本件申告に通用されるものと信ず。然るに原審は馴れ合の申告で、合法正当な決定を取消し上告人の請求を排斥したことは破毀を免れぬ。
第二点 原判決の判断には次のような判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。すなわち、原審裁判所は、税理士法第三〇条の解釈について「同条が税理士に対して税務代理行為につき代理権限を有することを明示する書面の提出を命じているのは、当該税理士が真実代理権限を有するかどうかについての税務官署側の判断を容易ならしめるとともに後日代理権限の存否につき争いの生ずることを未然に防止し、もって税務手続の安定、迅速を期する趣旨に出たものにすぎない……」としている。
しかしながら、税理士法第三十条が、税務代理行為において、書面の提出を要求した理由は、民事訴訟法と同様、手続の円滑安定を期するため民法上の代理よりも代理権の画一明確が要求されたものというべきである。原審判断の如く「真実代理権限を有するかどうかについての税務官署側の判断を容易ならしめるとともに……」というのであれば、税理士法第三一条の特別の授権を留保した特別委任の規定は、有名無実となる。税務代理行為が本人にもたらすものは、納税税務の発生という財産上重要なものであり、あるいは刑事訴追を受ける場合も考えられるものであるから場合によっては民事訴訟法よりも重要な行為といえるのである。
従って、申告等の税務代理行為をするについて代理権限を証する書面を効力要件と考え、書面によりその権限が証明されない限り、税務代理行為を無効と解すべきである。原審裁判所は、税理士法第三十条の解釈を誤り無効な手続によりなされた修正申告を有効と判断した違法がある。
第三点 原判決の判断には、理由不備の違法がある。すなわち原審裁判所は「税理士が当該代理行為につき真実代理権限の付与を受けている以上、たとえ同条の規定に基く書面を提出しなかったからといって……」とし、真実代理権限の付与を受けていると認定した根拠は、上告人智恵子が帰国したとき馬場弁護士が昭和二六年度所得税等の決定処分に不服申立をしていたのに格別異議を唱えなかったこと、及び名古屋国税局係官が審査について上告人宅を訪問し、前記譲渡を昭和二七年中として税務関係を処理することを告げた際に上告人智恵子が馬場弁護士とともに同席していたこと等を理由としている。しかしこれらの事実は昭和二六年度所得税及び再評価税等に対する再調査請求に関連するものであり、それは税理士法第三一条により特別委任を要するものであるから、無権代理によりなされた前記再調査請求に対する委任状の追認の事実として、代理権限ありと認定するのであるならば理解できるとしても、税理士法第三一条は個別的意思を尊重して、税務代理権の通常の範囲から除外し、特別の授権につき留保したのであるから、右代理権は前記昭和二六年度分の所得税および再評価税の各決定処分が取消されたことによって消滅したものというべきである。しかして、昭和二七年度分所得税および再評価税の各修正申告に関しては、ほかにあらためて真実代理権限の付与をなしたとすべき事実が認められず、又原審によれば本件修正申告は熱海税務署において係員の作成したものに、本件委任状を有しない馬場弁護士が押印提出したものであることが明らかである以上、前記事実の認定をもって本件修正申告に関する代理権限ありとした原審の判断は明らかに矛盾があり理由に不備があるものといわなければならない。
以上いずれの点からみても原判決は違法であって、破棄されるべきものである。
以上